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最高裁判所第一小法廷 昭和52年(行ツ)67号 判決

広島市千田町一丁目四番一五号

上告人

中道秋夫

右訴訟代理人弁護士

椎木緑司

平見和明

広島市可部町四日市九四六の二

被上告人

可部税務署長

米田達郎

右指定代理人

亀田哲

右当事者間の広島高等裁判所昭和五一年(行コ)第一一号所得税等更正決定取消請求事件について、同裁判所が昭和五二年三月二三日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人椎木緑司、同平見和明の上告理由について

所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 本山亨 裁判官 団藤重光 裁判官 藤崎萬里 裁判官 中村治朗 裁判官 谷口正孝)

(昭和五二年(行ツ)第六七号 上告人 中道秋夫)

上告代理人椎木緑司、同平見和明の上告理由

○上告理由書記載の上告理由

第一点 原判決は国税通則法第一・一六・二八・二九各条項等の解釈を誤まつた違法がある。

一、原判決は「当裁判所も控訴人の本件訴は不適法として却下すべきものと判断するが、その理由は原判決理由と同一であるからこれを引用する」として、自らの判断を示すこともなく、いとも簡単に控訴を棄却した。一審判決が言渡されてから五ケ月以内であり、その間僅か 回しか口頭弁論期日しか開かれておらず重視していなかつたことは明かである。

一審判決の理由は、被告(被上告人)が昭和四八年一一月一二日付で本件更正処分をし、適法に異議申立・審査請求等の手続をし、本件訴が昭和五〇年五月一二日提起され 回の口頭弁論期日を経過した後(本件記録によつて自明)、同年一一月一一日に至り、その時の納税地を所轄する訴外広島西税務署長が、突然右更正処分に対する再更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことを争なき事実と前提して第二項に

「〈1〉更正処分がなされた後に増額再更正処分がなされた場合、更正・再更正ともにそれぞれ別個の処分であることは否定できないが、〈2〉再更正は当初の更正をそのままにして、これに脱漏した部分だけを追加するものではなく、〈3〉再調査により判明した結果に基づいて課税標準等及び税額等を新たに確定するものであるから、〈4〉所得再更正がなされた場合には、当初の更正は増額再更正に吸収されてその内容となり、独立の処分としての存在を失うに至り、〈5〉その後における当該課税の当否は専ら再更正の当否をめぐつて争はれるべく、〈6〉当初の更正を独立の対象として、その取消を求める利益はないというべきである。〈7〉原告の主張する国税通則法の各条項も右見解を妨げる論拠とはならない」

旨判示している。従つて以下右判断が誤りであることを論述する。

二、既に右〈7〉の判示にも明かなように原告が国税通則法第一・一六・二八・二九各条項を挙げて主張しており、さらに控訴審もこれを補充拡張し、それぞれ詳細な準備書面を提出し陳述しているところであつて、これは一件記録によつて明白であるから重ねて同一の記載を省略してこれを援用し、さらに次のとおり附加陳述する。

国税通則法は昭和三七年四月に制定施行されたが、その第一条は

「この法律は国税についての基本的な事項及び共通的な事項を定め、税法の体系的な構成を整備し、かつ、国税に関する法律関係を明確にするとともに、税務行政の公正な運営を図り、もつて国民の納税義務の適正かつ円滑な履行に資することを目的とする。」

と規定し、従来解釈の分れていた点を立法的に解決したり、基本的体系的な定めを新たにしたものであるから、同法が最優先であり、かつ重視されなければならない。

原判決が同法に次のように明示された法条があるにもかかわらず、単に「右各法条も右見解を妨げる論拠とならない」と簡単に排斥したのは極めて法条無視の態度であり、法の解釈・執行を掌る立場として不可解に感受せざるを得ない。

三、同法二八条二項は、「更正通知書には次に掲げる事項を記載しなければならない」とし

「一、その更正前の課税標準等及び税額等

二、その更正後の課税標準等及び税額等

三、その更正に係る次に掲げる金額

イ その更正前の納付すべき税額がその更正により増加するときは、その増加する部分の税額」

と明確な規定を新たに設けたが、これは従来争はれていた更正処分の性質及び効力を立法的に解決して、終止符を打つたものであるとされている。

すなわち当時東京大学教授で、右立法を推進した税制調査会の委員であり、後に最高裁判所判事となられた田中二郎氏は税法の大典とされているその著租税法一八四頁以下において、

「申告、更正・決定又は再更正は、納税者又は税務官庁により、それぞれ別個独立の行為として行はれるが、いずれも成立した租税債務をその正当な数額に具体化するための行為であつて相互に密切な関係にある。これらの行為相互間の関係を法律的にどのようにみるかについては、従来次のような二つの考え方があつた。

(イ) 更正等の効力は、その処分によつて変更を生じた増差税額に関する部分についてのみ生じ、後の更正処分は前の申告等とは別個の行為として併存する。(以下独立説という)

(ロ) 更正等の処分により前の申告等の効力はその行為時に遡つて生じなかつたものとされ、更正等の効力が改めてその処分に係る金額について生ずる。(以下吸収説という)

以上の二つの考え方について現行の国税通則法はこれを立法的に解決することとし、(イ)説の立場(独立説)の立場に立つているものと解される。(それまでの判例はむしろ(ロ)説-吸収説をとるものが多かつたが、この立法によつて明確に独立説によるものと解決した)。

すなわち前の申告等と後の更正等はあくまで別個の行為として併存すべきもので、後の更正等の処分の効力は、たとえば増額更正の場合には、増差税額に関する部分についてのみ生ずるものとする。」

とされ、後の更正等が何等かの事情で取り消された場合にも、前の申告等は依然としてその効力も持続し、その範囲内における納税義務には何等の影響を及ぼすものではないという考え方をしているとして同法二九条等を引用しておられる。

四、同法二九条は更正等の効力について、次のように明確に規定している。

「第二四条又は第二六条で既に確定した納付すべき税額を増加させるものは、既に確定した納付すべき税額に係る部分の国税についての納税義務に影響を及ぼさない。

更正又は決定を取り消す処分又は判決は、その処分又は判決により減少した税額に係る部分以外の部分の国税についての納付義務に影響を及ぼさない」

そうであるのに当初の更正は、増額再更正に吸収されてその内容となり、独立の処分としての存在を失うに至るとし、従つて当初更正の納税義務に影響を及ぼすとの判決の見解は、右明定された法文の趣旨を全く曲解するものであり、違法たることは明かである。

法の定めに従えば、増額再更正に係る税額は、その増加する部分の税額であるから、増額再更正の取消により取消される部分の税額は再更正により増加した部分の税額である。

そうであれば、当初更正の取消を求める訴の利益は、増額再更正後においても維然としてあるというべきなのに、これを消滅してなくなつたとする原判決の見解は明かに違法である。

五、若し原判決の解釈をとれば、増額再更正後は当初更正の法効果は消滅し、当初更正税額は還付されるべきであるから、同趣旨の解釈をとる被上告人に還付請求をしたところ、今度は逆に当初更正の納税義務については国税通則法二九条により影響がないから還付できないとの回答をしてきたが、これは全く矛盾撞着であり、このような恣意な結果となる原因は原判決のような見解を支持しているからである。

また税務大学校発行の国税通則法(昭和四二年度本科教材)九六頁に

「通則法は原則として確定の段階では独立説によつており、更正・再更正・修正申告があつた場合は、前の申告・決定・更正に基づく納付・差押等の徴収処分の効力はどうなるかという問題、ならびに更正等が違法を理由として取り消されたときは前の申告等の効力はどうなるかという問題を解決している。また更正等があつた場合に租税債権の消滅時効を中断する効力のおよぶ範囲は、その更正等による増差税額に限定され、前の申告等による租税債権には及ばないという規定も設けている(通則法七三条第一項柱書に『処分に係る部分の国税については』とあるのはこの意味である)。

しかしながら、この独立説を貫くときは争訟の段階において、一個の国税債権についてされた更正等の数個の処分を統一的に審理しようという要請に応えることができない。そこで、通則法は手続の併合につき第八一条、併合審理につき第八二条の規定を設け、前の決定・更正等について争訟係属中にさらに更正等があつた場合の争訟の処理手続はどうするかという問題、並びに後にされた更正等について争訟の提起があつた場合において、すでに争訟の提起ができる期間を徒過した前の決定等について、併せて審理の対象とすることができるかどうかという問題について、吸収説の立場に立つて、立法的に解決している。」

旨記載している。これによると処分は何れも実体的に独立して存在するものであり、ただ次々更正等がある場合において既に訴訟の係属中であるときは、後の処分について一々異議申立・審査請求等の事前審査手続等を繰返さないでも、併合審理等をすることができるとしているのであり訴訟経済上当然である。すなわち右教材は独立説の立場に立つている。

六、さらに前記田中二郎元最高裁判事は同著「行政法総論」三三〇頁で、

「無効の行政行為とは、形式上行政行為として存在するに拘らず、正当の権限を有する行政庁又は裁判所による取消あるをまたず、はじめより行政行為の内容に適合する法律的効果を全く生じない行為をいい、これに対して、取消し得べき行政行為は、その成立に瑕疵があるに拘らず正当の権限を有する行政庁又は裁判所による取消のあるまでは有効な行政行為としてその効力を保持し、たゞ正当の権限を有する行政庁又は裁判所がその取消をなしてはじめてその効力を失う行政行為をいうものとする」

とし取消し得べき行政行為は、正規に取消宣言が行はれて始めて消滅するもので、あいまいな更正処分等によつて当然消滅するものではない旨述べられ、さらに同著「司法権の限界」八一頁以下に「抗告訴訟の本質」として

「(1) 従来の普通の学説判例によれば、取消訴訟は、特定の具体的処分の取消を求めるものであるから、一旦、その対象となつている具体的処分がその取消変更その他の理由によつて消滅した場合には、当該取消訴訟は目的の消滅によつて、訴の利益を欠くものとして却下されるべきものとされた。例えば法人税の更正処分の取消を求める訴訟は、その更正処分に対する再更正又は再々更正処分がなされた場合には、これらの新たな再更正又は再々更正処分について、訴の追加的併合をしない限り、(国税通則法八七条は、このような場合に訴の追加的併合を予定しているように見えるが、それは新たな事実関係を基礎として、再更正、再々更正処分がされた場合を前提としているので、同一の事実関係を基礎とする限り、法律の定める再更正、再々更正処分をすべきではなく、その誤謬が訂正補完されても、これに対する訴の追加的併合を必要としないと解すべきである。)当該取消訴訟の対象の消滅によつて訴の利益を失うに至るものとし、再更正又は再々更正処分については、取消訴訟の対象になつていないことを理由として、原告の訴は却下されざるを得なかつた。

しかし上述の私の考え方からすれば、更正処分に対する取消訴訟は、更正処分を手がかりとしながら、一定の事実関係を基礎として、不当に多額の法人税を課せられた被害者たる原告から、その違法状態の排除を求めているものであつて、一定の事実関係に変動が生じたことを理由とする場合(新しく課税漏れの事実が発見されたこと等)は別として、同一の事実関係に基づく限り、仮りに再更正・再々更正処分がなされたとしても、これらの処分に対して、それぞれ訴の追加的併合又は訴の変更をするまでもなく、取消訴訟の対象の同一性は失はれることはないのであつて、最初の取消訴訟に示された裁判の要求に応じて、実体審理を行い、判断を示すべきこととなる。これはただ一例を示しただけであるが、このような考え方をすることによつて人民の権利々益の救済制度としての抗告訴訟の目的はよりよく達成されることになるであろう(最高昭三九年(行ツ)五二号、同四二年九月一九日判決(民集二一巻七号一八二八頁)の多数意見は従来の考え方に従つたものであるが、私はこれと見解を異にする、その理由については同判決につけた私の反対意見参照-右同旨の見解が述べられる)」

とされているが、右の理論はまことに本件に適切に妥当するであろう。

七、さらに右のような見解に従はなければ、行政庁は恣意に次々と再更正・再々更正処分を繰返しては訴訟の進行を奔浪し、さらに判決が確定した後でも、同様な処分をすることによつて既判力を覆すこともできることゝなる。この点について同著八四頁は続けていう。

「(2) 右の抗告訴訟の訴訟物についての考え方の相違は、判決の既判力・拘束力についての考え方の差異につながる。例えば従来の考え方によれば、取消訴訟によつて処分そのものが取り消されても、行政庁は、改めて、公益上の必要等を名目として、内容的には同一の第二の処分をすることによつて、確定判決の効力を無に帰せしめる可能性が生じる。

しかしさきに述べた私の考え方に従えば、当初の一定の事実関係が変らず、その同一性を維持する限り、確定判決の既判力が及び、同一内容の処分を繰り返すことは許されず、第二、第三の処分は当然に無効と解されることとなる。かように解してはじめて、同一の事実関係のもとに、同一の処分が繰り返されることを阻止し、人民の権利利益の救済制度としての抗告訴訟の真の目的を達成することができる。(行政不服審査法による不服申立に基ずく裁決・決定の確定した場合も同様に解すべきことについて、最高昭四〇(行ツ)一〇三号、同四二、九、二六判決民集二一巻七号一八八七頁の私の意見参照、すなわち買収計画の取消決定又は判決が確定したときは、同一の事実関係のもとでは、重ねて同一の買収計画を立てることはできず、あえて立てた同一の買収計画は無効と解すべきである。)

とされているが、誠に至当であつて、そうでなければ民事及び行政訴訟制度全体を無意味に帰着するに至る。この点原判決はどう考えているのであろうか。

八、最高昭三九年(行ツ)第五二号、同四二年九月一九日判決は前示のように、

「〈1〉 上告人は、被上告人税務署長が上告人に対し、昭和三三年三月三一日付をもつてした昭和三一事業年度の法人税に関する更正の取消を求めるものである。しかして原判決の確定した事実によれば、被上告人税務署長は、本件訴訟係属後の昭和三五年四月三〇日にいたり、訴訟で攻撃されている右更正処分の瑕疵を是正するために、同日付で更正の用紙を用い、上告人の昭和三一事業年度の所得金額を確定申告書記載の金額に減額する旨の再更正(第二次更正処分)と、更正の具体的根拠を明示して、申告に係る課税標準及び税額を第一次更正処分のとおりに更正する旨の再々更正(第三次更正処分)をなし、右二個の処分の通知書を一通の封筒に同封して上告人に送付した、というのである。

〈2〉 右の事実関係の下においては、第二次更正処分は、第三次更正処分を行なうための前提手続たる意味を有するに過ぎず、また第三次更正処分も、実質的には第一次更正処分の附記理由を追完したにとゞまることは否定し得ず、また、かゝる行為の効力には疑問がないわけではない。

〈3〉 しかしながら、これらの行為も各々独立の行政処分であることはいうまでもなく、その取消の求められていない本件においては、第一次更正処分は第二次更正処分によつて取り消され、第三次更正処分は第一次更正処分とは別個になされた新たな行政処分と解さざるを得ない。

〈4〉 されば第一次更正処分の取消を求めるに過ぎない本訴は第二次更正処分の行はれた時以降、その利益を失う-に至つたものというべく、これと同趣旨に出た原審の判断は正当であり論旨は排斥を免れない、」

との多数意見を出し、これに対し前示田中二郎裁判官の少数意見が付されている。田中意見は前記著述の論旨を要領よく纒められたもので、こゝに再度掲載するのは省略して援用しておくが、要は

「〈5〉 このような行政庁の一方的な再更正・再々更正の処分に対し、常に納税者に相次いで訴の追加的併合をなすべきことを要求するということはあまりにも訴訟技術に拘泥しすぎ、納税者の救済制度の趣旨にそわない解釈である。第二次の再更正処分及び第三次の再々更正処分も第一次更正処分の取消を求める訴訟の中に含まれるものと解するのが更正処分に対する取消訴訟の救済制度としての趣旨・目的に沿う。

〈6〉 第二次の再更正処分は、第一次更正処分が理由附記を欠く瑕疵を有することを認めて、一応形式上これを白紙に戻すこととすると同時に、第三次の再々更正処分によって、課税標準及び税額は第一次更正処分のとおりにしたまま、その理由附記を追完したゞけに過ぎず、結局これら一連の処分は第一次更正処分に理由附記を追完するためにとられた措置にほかならず、それぞれを別個独立の処分と考えるべきではない。本件取消訴訟の対象になつているのは内容であつて、第二次再更正処分は形式上原告の主張するとおりに更正しており、第三次処分の内容が、正に本件訴訟の対象となつていると解すべきである。

〈7〉 若し多数意見のように行政庁側で自由に次々と更正処分を行うことができ、原告がその度毎に訴の追加的併合をしない以上訴訟そのものが却下されるとなれば、原告側の煩は堪えがたく、被告側の措置にふり廻されることになり、救済制度としての取消訴訟の目的は達せられないのみならず、特に被告が敗訴を免れるため意識的にされた場合も考えられ、訴訟の実体を洞察し、原告に門前払いを喰わせることなく、実体について判断を下すのが相当で、原判決及び第一審判決を破棄して第一審に差戻し、本案について審議させるべきである」

というのであつて、論旨まことに正当であり、挙げてこの論旨を援用する。

九、右多数意見は従来の吸収説を単純に採用したものであるが、前記八の〈2〉のとおり独立した行政処分としての効力に多大の疑問を自ら感じており、しかも右吸収説は前記国税通則法の制定により立法的に解決されて、異論や解釈を挿む余地がなくなつてきている。

右通則法は前記のとおり昭和三七年四月一日から施行されたものであり、本件処分は八の〈1〉記載のとおり、第一次処分が昭和三三年三月三一日、第二・三次処分が同三五年四月三〇日で右訴も同三三年中に提起されているとみるべく、すべて通則法制定前の問題であつて、最高判決は昭和四二年九月一九日であるけれども、行為時・処分時の法律を適用すべく、従つて従来の通説や判例に準拠したともいえるのである。

しかるに現時としては通則法で立法解決された後であるから、右判決は判例としての効用はなく、若しありとすれば大法廷によつて変更されるべきである。

何れにしてもこの際新判例で立法解決の趣旨を鮮明にして載きたいものである。

よつてここに原判決及び第一審判決を破棄し、実体審理をさせるため第一審たる広島地方裁判所に差戻す旨の御判決ありたい。

第二点 原判決は更正権の濫用、信義則違背等の適用及び解釈を誤つた違法がある。

一、田中二郎元最高裁判事は前掲「租税法」一一九頁に「(3)解釈原理としての信義誠実・禁反言の原則」として、

「主として私法の分野で発展した信義誠実の原則とか信頼の原則とか禁反言の原則とかが租税法の分野にも妥当するかどうか。‥‥私は租税法律主義の原則も、租税法における解釈原理としての信義誠実の原則等の適用を否定すべき根拠とはならないと考える。これらの原則は、あらゆる分野における法に内在する一種の条理の表現とみるべきもので、租税法に限つてその適用を排斥すべき根拠は見出しがたいからである。」

とし東京地判昭四〇・五・二六判例時報四一一号二九頁、東京高判昭四一・六・六行裁例集一七巻六号六〇七頁等禁反言則・信義則等を採用した判例を例示され、さらに前掲最高裁昭四二・九・一九判決の少数意見八の〈7〉の所で、

「このような被告行政庁側の措置が、敗訴を免れるために意識的にされたような場合には、あるいは更正権の濫用として、あるいは信義則の違反として、その効力を否定することもできるであろうが、そのような理論をまつまでもなく、訴訟の実体を洞察し、納税者や一般国民の納得のいく判断がなければならない。本件についても、原告に門前払いを喰はせることなく、実体について判断を下すのが相当‥‥」

と述べられている。そうしてさらにこのような行為がなされるときは前記七で述べたように確定判決の既判力をもなお自由に覆すことができる結果となり、このようなことは民事訴訟制度の根本を覆すものであり、かつ行政上の救済制度も無意味となる。

二、北野弘之教授は「税法の基本原理」六二頁に、

「信義誠実の原則は税務取扱不変更の原則を意味し、みだりに従来よりも不利益な取扱に変更すべきでないという要請である。‥‥結局税務官庁の賦課処分等が納税義務者の正当の信頼を無視して行はれた場合に、この原則が働き、例えば法人税の申告指導等において従来から該支出の損金性を認めておきながら、何等の警告もなしに、いきなりその損金性を否認し、更正処分をなすごときは、明かに善意義務者の信頼を無視するものというべく、このような場合には事前に警告を発して、まず納税者の正当な申告を期待すべきである。」

とし、中川一郎教授は「税法学大系(1)総論」一五七頁以下で、

「ドイツのBFH(連邦財政裁判所)、スイスのBG(最高裁判所)、わが国の裁判所は、すべて信義誠実の原則を「法の根底をなす正義の理念より当然生ずる法則」であるとして、これを租税事件に適用しているが(東京地判昭四〇、五、二六)果してそれで充分であろうか、われわれは憲法一四条一項の規定する「法平等の原則の税法における顕現」である租税平等主義しかも形式的租税平等主義に法的根拠を求めるべきではないかと考える。形式的租税平等主義は、同一納税義務者に対する課税処分における税法の適用並びに要件事実の認定について、時間的に前になされた処分を基準として、後になされる処分がこれに矛盾しないことを要請している。いずれの処分が正しいかということを判断して正しい処分を基準とするのではなく、仮に前の処分が誤つていても、後の処分は前の処分に従うことを要請する。もちろん前の処分が誤つている場合には、将来の処分は事前に納税義務者に知らして正しい処分をなし得ることは、実質的租税平等主義の要請するところであるが、それ以前においては、前の処分の拘束を受けるのである。これは信義誠実の原則に通ずるものである。すなわち形式的租税平等主義の一顕現を税法における信義誠実の原則であると考えるから、憲法一四条一項に法的根拠を置くものと解する」

として単に信義則や禁反言則のみならず、憲法一四条一項までを根拠とされる。

三、原告は被告の昭和四八年一一月一二日付更正決定に対し適法な異議審査手続を経由して昭和五〇年五月一二日本件提訴をなし、同年六月一八日第一回口頭弁論が行はれ、翌五一年一月二一日の第四回口頭弁論期日で陳述された被告五〇年一二月二三日において、始めて、

「国税通則法三〇条一項にいう原告の現在の納税地を所轄する訴外広島西税務署長は、昭和五〇年一一月一一日付で原告の昭和四七年分の所得税について再更正(増額)及び過少申告加算税の賦課決定をした。その結果本件訴は訴の利益を欠き不適法なものとなつたから却下されるべきである」

旨の主張をした。そして乙一号証として更正及加算税賦課決議書を提出した。

およそ民事訴訟では妨訴抗弁もしないで本案の答弁に入ると妨訴抗弁は放棄したものとして主張できず、その他時機に遅れた防禦方法とか、責問権の抛棄とかで、採用され得なくなるのが通則である。

四、このようにして一般にはその主張の時機・方法・手続について厳格な制限を受けて訴訟を維持継続しているのに、ひとり課税庁のみが恣意に自由な時機に処分を変更でき、せつかくこれまで努力を傾注した成果を水泡に帰せしめるようなことができるわけがない。

特に税務訴訟にあつては、人民はいつでも自由に提訴できるものではなく、処分のあつた日から極めて短時日の間に、異議申立や審査請求をしなければならず、これを経て始めて提訴できるという厳しい制約がある、それを課税庁のみはなんらの制約も受けず、いつでも自由に処分を変更できると考えるのは著しく均衡を失し、さらに新処分に対し、これらの事前手続から出直さないと適法な新訴の提起がないとなれば、全く被告にふり廻される結果となり、国民の権利を救済する税務訴訟の意義は全く没却されてしまう。

五、特に本件は更正処分がなされてから、再更正処分の間に二年の期間があり、別に新しい事実が発見されたわけでもないのに、単なる課税庁の従来との見解の相違というだけで(更正処分の見解はそれが正しいとそれまでは繰返し主張してきた)簡単に再更正したことは禁反言則の違背であり、さらにことさら訴訟の進んだ前記段階でこれを行つたことからみても、敗訴を免れんとして故意にした手段であるとみることもできるのである。

若し実体審理がされれば、さらに新しい更正処分がその実体的理由がなく、単なるふり廻しや、門前払いを繰返すためになされたものであることが、いよいよ明白となつてくるであろう。

一般に行政庁は門前払いの理由のみに全力投球し、実体的回答はなるべくこれを避け、あいまいにする傾向があり、裁判所またこれにつられて、却下処分することのみに重点を置き易い傾向がある。

これでは国民の権利救済を目的とした行政訴訟の意味はなくなり、ひいて司法権そのものの存在価値すら疑問となる。実質問題に答えて始めて規範は明確となり、国民は納得し、また行政庁の恣意も抑制することができる筈である。

六、以上のような観点のもとに原判決には更正権の濫用、信義誠実の原則、禁反言の原則等に違反した違法があるので、原判決を破棄し、第一審たる広島地方裁判所に差戻されるようお願いする。

以上

○上告理由追加書記載の上告理由

第一・二審で提出した上告人(被告・控訴人)の準備書面記載の論旨は、右上告理由書の論旨を追加及び補充すべきものであるから、以下これを添付してこれを援用する。

準備書面

請求の趣旨

一、被上告人が昭和四八年一一月一二日付でした、昭和四七年分所得税の更正および過少申告加算税の賦課決定を取消す訴訟費用は被告の負担とする

との判決を求めた。

右昭和五〇年(行ウ)第六号所得税等更正決定取消請求事件に対する広島地方裁判所の昭和五一年一〇月二七日言渡し判決。

「 主文

本件訴をいずれも却下する

訴訟費用は原告の負担とする」

及び昭和五一年(行コ)第一一号に対する広島高等裁判所の昭和五二年三月二三日言渡し判決

「 主文

本件控訴を棄却する

控訴費用は、控訴人の負担とする」

を取消す、

一審、二審上告共訴訟費用は被上告人の負担とする、

との判決を求める、

請求の原因

一、請求原因の詳細は別添控訴に於ける準備書面理由の通りであるが之を要約する。

1 国税通則法二八条二項三号は再更正処分の意志表示である更正通知書に記載すべき増額更正に係る金額を「その更正前の納付すべき税額が、その更正により増加するときは、その増加する部分の税額」であることを明らかに規定している。

そうであるのに当初の更正は増額再更正に吸収されるとして当初更正税額と増額再更正税額との合計額を以つて新たに確定された税額であるとする判決の見解は違法である。

(註) 国税通則法一六条によると更正、再更正処分は税額確定の手続であると規定されている。

2 国税通則法二九条によれば増額再更正は当初の更正処分等により既に確定した納付すべき税額に係る部分の国税についての納税義務に影響を及ぼさないと規定している。

そうであるのに当初の更正は増額再更正に吸収されて、その内容となり独立の処分としての存在を失うに至るとし当初更正の納税義務に影響を及ぼすとの判決の見解は違法である。

3 法の定めに従えば増額再更正に係る税額はその増加する部分の税額であるから増額再更正の取消しにより取消される部分の税額は再更正により増加した部分の税額である。

そうであれば、当初更正の取消しを求める訴の利益は増額再更正後に於てもあるというべきである、之をないとする判決の見解は違法である。

4 国税通則法一条によれば国税通則法は「国税に関する法律関係を明確にする」目的を有すると規定している。

そうであるのに法的根拠を有しない見解を以つて国税通則法の各条項に優るとする判決の理由は法解釈の原則を誤つたものである。

5 被上告人は判決と同旨の主張をなし増額再更正後は当初更正の法効果は消滅すると主張しているが、そうであれば当初更正税額は還付されるべきであるとの別添還付請求をしたが被上告人は当初更正の納税義務については国税通則法二九条により影響が無いから還付できないと別添回答書を送達して来た。

被上告人の主張と履行は全く相反し且つ当初更正税額の還付ができないとの被上告人の履行上の理由では上告人の主張を認めている。

6 増額再更正は当初更正に被上告人が法適用の誤りを犯したとの理由に因るものであるが、上告人の異議申立、審査請求等の機会に充分見直しをなし当初更正は正当である旨異議決定及び審査決定がなされているのに敢えて増額再更正をなしたことは被上告人が敗訴を免れる手段として吸収説を悪用したものと推定せざるを得ない。

以上の通りであるから係る増額再更正を容認する吸収説はたゞに違法であるのみならず、ますます課税庁の安易な誤課税を増発させ、特に増額再更正が訴訟中になされると徒らに裁判を長引かせる結果となる。

又法的根拠を有しない見解が法に優るものとしてなされた判決には到底上告人は心服し難いので右上告に及んだ次第である。

以上

(添付書類省略)

準備書面(一回目)

昭和五一年一一月一三日付で控訴人が、提出した訴状について左記の通り準備書面を提出する、

第一、昭和五〇年(行ウ)第六号所得税等、更正決定取消請求事件に対する昭和五一年一〇月二七日の、言渡判決の、全部の取消しを求める理由。

一、判決理由二について

(判決理由)

ところで、更正処分が、なされた後に、増額再更正処分が、なされた場合、更正、再更正ともに、それぞれ別個の処分であることは、否定できないが、再更正は、当初の更正を、そのままにして、これに、脱漏した部分だけを、追加するものではなく、再調査により、判明した結果に基づいて、課税標準等及び、税額等を、新たに、確定するものであるから、増額再更正が、なされた場合には、当初の更正は、増額再更正に、吸収されて、その内容となり、独立の処分として、の存在を、失うに至り、その後における、当該課税の当否は、専ら、右再更正の当否を、めぐつて、争われるべく、当初の、更正を、独立の対象として、その取消を、求める利益はないというべきである。原告の主張する国税通則法の、各条項も、右見解を、妨げる論拠とはならない。

(判決書に記載された本案前の、抗弁に対する原告の反論)

一、訴の利益について

再更正処分は、税務署長が、右再更正前にした更正又は、決定について、調査し、課税標準等又は、税額等が、過大又は、過少であることを、知つたとき、再度更正することを、いうのであるから、その処分は、過大又は、過少である部分についてのみ、なされるものであり、増額更正についていえば、国税通則法二八条二項三号は、更正通知書に、記載すべき事項の一つとして、「その更正に係る次に掲げる金額」として、「その更正前の、納付すべき、税額が、その更正により、増加するときは、その増加する部分の税額」と規定し、増差税額が、更正に係る、金額であることを、明らかにしている。また、更正処分、再更正処分は、いずれも、税額確定のための、手続であるから、既に、確定されている、税額の、部分までをも、含んで、再び、税額を、確定する、必要はない。国税通則法二九条によれば、増額再更正は、当初の、更正処分等により、既に、確定した、納付すべき、税額に係る部分の国税についての、納税義務に、影響を、及ぼさないのであり、増額再更正処分と、当初の更正処分とは、それぞれ独立して、併存すると、解すべきである。

被告主張のとおり、当初更正処分が、再更正処分に、吸収化体されて、外形が、消滅し、独立の、存在を、失うとすることは、再更正処分が、当初更正処分により、既に、確定した、納付すべき、税額に係る、部分の、国税についての、納税義務にまでも、影響を、及ぼすことを意味する。そして、当初の更正処分が、再更正処分に吸収化体されるとした場合、再更正処分についてこれを、取消す旨の、判決があつても、当初の更正処分については、行訴法七条による、民訴法一八六条の、定めにより判決を、得ることが、できないから、当初の更正処分は、瑕疵があるにも、かかわらずその効力を、保持することとなる。

さらに訴訟係属中に、再更正処分がなされた場合、当初の更正処分が、自動的に、取消されるとの法の定めはない。

二、被告適格について

以上のとおり増額再更正処分が、あつても、当初の、更正処分は、これに吸収化体されて独立の、存在を、失うものではなく、また被告が、本件更正処分を、取消したこともない、したがつて、国税通則法八六条三項の通知もない現在、被告は、依然として行訴法一一条により、被告適格を有する。

(控訴準備書面に於ける控訴人の判決理由に対する反論)

1 判決理由の矛盾について

(一) 判決は、その理由で「更正処分が、なされた後に、増額再更正処分が、なされた場合、更正、再更正ともに、それぞれ別個の処分であることは、否定できないが、」と言いながら、「増額再更正がなされた場合には、当初の更正は、増額再更正に、吸収されて、その内容となり、独立の処分としての、存在を、失うに至り」と判示される

然しながら一般的に、無効の、行政行為でない限り、属に、取消し得べき行政行為であつたとしても、その成立に、瑕疵があるに拘らず正当の、権限を、有する行政庁又は、裁判所による、取消のあるまでは、有効な行政行為として、その効力を、保持することは、行政法の原則である。

本件に於ける当初更正は、異議決定、審査決定の、何れの処分も、原処分を、正当とし、被控訴人及び国税不服審判所長は、控訴人の、異議申立て及び、審査請求を、棄却している、ところが、被控訴人が、一審訴訟の、準備書面を、提出中に、原処分の、法令適用を以つてしては、訴が、維持出来ないとして、その準備書面により、自ら原処分の、誤りを、表示し、遂には、控訴人の新住所地の、所轄広島西税務署長をして、原処分を、否認せしめ当初更正処分の、税額を、増額する再更正処分をした。

そうであるのに、被控訴人は、自らの、誤つた、原処分を、取消さず、もとより、再更正処分者である、広島西税務署長も、取消しをなさず、現在に至つている。

判決理由で、それぞれ別個の、処分であることを、認められた更正処分及び再更正処分は、行政法の、原則によれば、現在に至るも、その法律的効力を、保持し、併存していると、解さねばならない。

それにも拘らず、「当初の更正は、増額再更正に、吸収されて、その内容となり、独立の処分としての、存在を失う」と判示されるのであるが、

国税通則法第二九条(更正等の効力)では、

「第二十四条(更正)又は、第二十六条(再更正)の、規定による更正(以下「更正」という)で既に、確定した、納付すべき、税額を、増加させるものは、既に、確定した納付すべき税額に係る部分の国税についての、納税義務に、影響を、及ぼさない

‥‥以下省略‥‥」

と規定し、再更正処分により、当初更正処分の、効力は、影響されないことを、規定しているのであるから、之を、影響が、あるものとして、「当初の更正は、増額再更正に、吸収されて、その内容となり、独立の処分としての存在を失う」と、判示されることは、前記国税通則法第二九条で、規定する更正等の、効力を、無視することになるから、違法な判決理由となるのである。

さればこそ、控訴人は、「訴訟係属中に、再更正処分が、なされた場合、当初の更正処分が、自動的に、取消されるとの法の定めはない」ことを、主張するのであるが、判決理由では、之ら控訴人の、主張については、明確な、理由を、示さず、「原告の主張する国税通則法の、各条項も、右見解を、妨げる論拠とはならない」と、言い、たゞたゞ見解を以つて法に優るものの如く、主張されるのみである。

(二) 判決はその理由で「再更正は、当初の更正をそのままにして、これに脱漏した部分だけを、追加するものではなく、再調査により、判明した結果に基づいて、課税標準等及び税額等を、新たに確定するものであるから」と言い之を原因として、その結果「増額再更正が、なされた場合には、当初の更正は、増額再更正に、吸収されてその内容となり」と説示される。

然しながら「再調査により判明した結果に基づいて、課税標準等及び、税額等を、新たに確定するものである」のであれば、「当初の更正は、増額再更正に、吸収されてその内容となり」と言うことは、あてはまらないことになる。

なぜかなら、増額再更正が、課税標準等及び税額等を、新たに確定するものであるのであれば、増額再更正が、当初更正の内容に影響される理由は、無いから、敢えて、当初更正の内容を、吸収する必要はない。

又、増額再更正は、国税通則法第二六条で規定する当初更正の、課税標準等又は、税額等が、過少であることを知つた部分についてなせば足りることに鑑みれば、当初更正処分の内容を、増額再更正に吸収する必要もない。

国税通則法第二六条で、規定するように、当初更正の、課税標準等及び税額等を、前提として、始めて、増額再更正が、成立すると言うのであれば、当初更正処分の、存立を、認めざるを、得ない。

国税通則法第二九条で、「既に確定した納付すべき税額を、増加させるものは、既に確定した納付すべき、税額に係る部分の、国税についての、納税義務に影響を及ぼさない」と、規定したことは、「既に確定した納付すべき税額」は、確定された範囲内については、正当で、あることを予定していると解される。

そこに当初更正の存立と、それに瑕疵がある場合の、不服申立制度による処分の取消しを求める意義が、あるのである。

(註) 「既に確定した納付すべき税額」が確定された範囲内について、正当であると言うことは、「既に確定した納付すぺき税額」のみについて考えるとき、増額要因はあつても、取消し、減額等の、要因が無いことを云うのである。

従つて、取消し減額等の、瑕疵要因について、不服申立等の申立、請求、訴え等の、法定期間を、徒過した場合は、「既に確定した納付すべき税額」は確定された範囲内について正当であると、解さねばならない

又この様な考え方をすることは、「既に確定した納付すべき税額を増加させる」場合に、「既に確定した納付すべき税額」について増額要因と、減額要因とあり、加算、減算の結果、「既に確定した納付すべき税額を、増加させる」場合に、該当するとすれば、その増額再更正は「既に確定した納付すべき税額に係る部分の国税についての、納税義務に影響を及ぼす」こととなり法に矛盾が生ずるからである。

(三) 国税債権債務の、確定の意義から、更正及び増額再更正の併存と、増額再更正が、その増差税額について、なされるものであることについて述べる。

国税債権債務確定の、意義は、一般的に、次の様に解釈されている。

国税債権債務の、成立が当該債権債務の、数額の、客観的な決定をいうに過ぎないものである以上、納付または、徴収というような、債権債務内容の、現実的な表現のためには、当該債権債務の、数額を、具体的に、確認して、これを税務官庁または、納税者の、主観に反映させることが、必要である、いいかえれば、成立した国税債権債務の内容は、まず、課税要件たる、事実をは握し、ついでこれに関係法令の、規定を適用して、課税標準および、税額の、計算を、行なつて始めて、当事者の、一方に確認され、相手方の認識を、必要とする場合には、確認された、内容を、相手方に、通知することによつて、当事者双方の、認識を、得ることができる。

右通知行為は、申告、更正、決定等と、呼ばれている。

又、確認を、主たる内容とするこのような作用を「確定」といい、その後の、国税債権債務の、履行手続の、前提条件となるものである。

すなわち、確定がなければ、納付はなく、徴収もされない、逆に、確定があれば納付するか、徴収される。

例え納税義務が、成立していても、確定がなければ、原則として、適法な、予納以外は、納付された税額は、誤納額となる。

右のような税法上の、確定即ち、申告、更正(再更正を含む)決定等の確定の意義は、裁判に於ける上訴期間を、徒過したことによる判決の「確定」が、終局的な確定を、意味するのに反し、それとは異なり、一個の、租税債権債務の全体の確定または、終局的な確定とは限らない即ち申告には、修正申告或は、更正の請求があり、又更正、決定には、再更正或は、修正申告、その他異議、審査、訴え等に対する取消し処分があるように、もしも当初の確定による税額が、客観的に成立した、租税債権債務を、正確に、反映して、いないときは、引き続いて、同一の租税債権債務について、別個の、確定が行なわれることになる。即ち一たん確定した税額も、争訟手続の場合の、確定とは、異なり、その後の、確定手続によつて、あるいは、増額され、あるいは、減額又は、取消しされることを、許すものである。

要するに、正当な租税債権債務の追及性の原則からすれば、除斥期間経過又は、租税債務者の、更正請求、不服申立、訴え等の法定期間経過等に因り、正当な租税債権債務の、追及が、なされなくなつた場合を除き、既に確定された債権債務は、それが、変更されるまでの間は、正当なものとして、課税上取扱われるのである。

以上の、租税債権債務の、確定の性質に基づけば、当初更正は、その段階に於ける申告額との異動金額を、確定することを、意味し、その後、別個になされた、増額再更正は、又その段階に於ける、当初更正額との、異動金額を、確定することを、意味するから、それ等更正後の金額が、必ずしも、終局的な、確定であり、且つ、全体的な、確定であるとは、限らないのである。従つて、判決理由で、説示されるように、「増額再更正が、なされた場合には、当初の、更正は、増額再更正に、吸収されて、その内容となり、独立の処分としての、存在を失うに至」らしむる程、その増額再更正後の、金額が、絶対的な、ものと、言うことは、出来ないのである。

さればこそ国税通則法第二八条(更正又は、決定の手続)で

「第二十四条から第二十六条まで(更正、決定)の規定による更正又は決定(以下「更正又は決定」という)は、税務署長が更正通知書又は、決定通知書を送達して行なう、

更正通知書には、次に掲げる事項を、記載しなければならない、この場合において、その更正が前条の、調査に基づくものであるときは、その旨を、附記しなければならない。

一、その更正前の、課税標準等及び税額等

二、その更正後の課税標準等及び税額等

三、その更正に係る次に掲げる金額

イ その更正前の、納付すべき税額が、その更正により、増加するときはその増加する部分の税額

‥‥以下省略‥‥」

と規定し、増額再更正になる金額は、その増差税額であることが、規定されている。

又国税通則法第三五条第二項(申告納税方式による国税等の納付)では、

「‥‥第一項省略‥‥

次の各号に掲げる金額に、相当する国税の、納税者は、その国税を、当該各号に掲げる日(延納に係る国税その他国税に関する法律に別段の、納期限の定めがある国税については、当該法律に定める納期限)

一、‥‥一号省略‥‥

二、更正通知書に、記載された第二十八条第二項第三号イからハまで、(更正により納付すべき税額)に掲げる金額(その更正により、納付すべき税想が、新たにあることとなつた場合には、当該納付すべき税想)又は、決定通知書に、記載された納付すべき税額その更正通知書又は、決定通知書が、発せられた日の翌日から、起算して、一月を経過する日

‥‥以下省略‥‥」

とあり、増額再更正で、新たに納付すべき税額は、増額再更正後の、税額ではなく、第二八条第二項第三号イの前記差税額であるとして規定されている。

更に、判決理由を考察するに、「増額再更正が、なされた場合には、当初の更正は、増額再更正に、吸収されて、その内容となり、独立の処分としての、存在を、失うに至り」と言うのであれば、当初更正税額は、

国税通則法第五六条(還付)

「国税局長、税務署長又は、税関長は、国税に係る過誤納金(以下「還付金等」という)があるときは、遅滞なく、金銭で、還付しなければならない」

の規定に基づき還付されなくてはならないのであるが、増額再更正が、なされても「当初更正が、独立の、処分としての存在を失う」ことにならないので、還付されることは、無いし、又現実に、還付が、なされた実例が無い。

以上反論した通りであるから、判決理由で説示される「再調査により、判明した結果に、基づいて、課税標準等及び税額等を、新たに確定するものである」とし、当初更正税額を、吸収した後の、全体税額が、増額再更正により、新たに、確定されたもので、その増差税額について、新たに、確定されたものでは、ないとされる、判決理由は、法に照らせば、失当である。

(四) 判決理由は、「当初の更正は、増額再更正に吸収されて、その内容となり」と判示される。

然しながら、本件の場合は、被控訴人が、分譲マンションの敷地となるべき土地持分権の、譲渡所得の、計算で従前その敷地の1/2が貸店舗として、継続的に、賃貸されていることを理由に、上記土地持分権の譲渡から、生ずる収入金の1/2について、租税特別措置法第三七条を適用し、譲渡なかりしものとし、他の1/2の収入金については、分離長期譲渡所得として、課税し、分譲マンションの、譲渡については、分離短期譲渡所得の、損失として、当初の更正処分を、していたところ、その後新住所地所轄広島西税務署長は、前記租税特別措置法第三七条の、適用は無いと、し、分離短期譲渡所得の、損失は、雑所得の、損失であるとして、再更正処分をした。

右の場合、当初更正では、租税特別措置法第三七条の、適用があるとする処分に対し、増額再更正では、之が、適用は、無いとする処分である。従つて、前者と、後者の処分は全く、相反する法令適用の内容を、有するから、若し、判決理由の、通りとすれば、当初更正処分の、租税特別措置法第三七条の、適用が、あるから、土地の持分権の、譲渡収入金額の1/2は、譲渡なかりし、ものとするとの、処分の内容は、増額再更正処分に吸収されて、その内容となる筈であるのに、反対に、その適用が、無いとされるのであるから、判決理由の「吸収されてその内容となり」と、言うことは、全く、あり得ないこととなるのである。

判決理由は、矛盾が、あると、言わねばならない。

(五) 判決理由は、「増額再更正がなされた場合には、当初の更正は、増額更正に吸収されて、その内容となり、独立の処分として、の存在を、失うに至り、その後における当該課税の、当否は専ら、右再更正の、当否をめぐつて、争われるべく、当初の更正を、独立の対象として、その取消を、求める利益は、ないというべきである」と結論される。

国税通則法は、第一一四条(行政事件訴訟法との関係)で、

「国税に関する法律に基づく処分に関する訴訟については、この節及び他の国税に関する法律に別段の定めがあるものを除き、行政事件訴訟法(昭和三十七年法律第百三十九号)その他の一般の行政事件訴訟に関する法律の、定めるところによる」

と規定する外第一一五条(不服申立ての前置等)第一一六条(証拠申出の順序)を訴訟関係条文としている。

従つて、国税通則法は、第八章「不服審査及び訴訟」についての規定を、設け、この不服申立制度により、国税に関する法律に基づく課税庁の、違法又は、不当な、処分に対する不服申立てのみちを開き、簡易迅速な手続による、国民の、権利利益の救済を図るとともに税務行政の公正な、運営を図ろうとしている。

そうであるから、異議申立て、審査請求、訴えの各段階については、一貫した方法により、審理されるべきものと考えられる。

ところで仮に当初更正処分が審査請求の段階で、審理されているとき、増額再更正が、なされた場合「その後における当該課税の当否は、専ら、右再更正の、当否をめぐつて、争われるべく、当初の更正を、独立の対象として、その取消を、求める利益は、ないと、いうべきである」としてなされるべきであるか又、実際になされているかについて、審査請求の段階について検討する。

国税庁長官の、国税局長、沖縄国税事務所長、税関長、沖縄地区税関長、国税不服審判所長に対する「不服審査基本通達(審査請求関係)の制定について」の昭和四八年一一月一日付国管(管)二〇一、同二〇〇の通達の、第三章雑則第一〇四条((併合審理等))関係一〇四―四(併合審理をした場合の裁決)によると、

「一〇四―一または一〇四―二により、併合審理をした場合の裁決は、それぞれの、審査請求についてしなければならないが、それぞれの審査請求が、同一人から、されたものであるときは、便宜同一の、裁決書に、それぞれの主文を、併記し、裁決の理由の附記は、共通にしても、さしつかえない」

とあり、前記不服審査基本通達(審査請求関係)一〇四―一は、

「法第一〇四条第一項の規定による併合審理は、たとえば、次に掲げる審査請求のように、一または、複数の処分について、された複数の審査請求が、それぞれ、別個に係属している場合に行なうことができる。

(1) 同一年分または、同一事業年度分の、更正または、決定についての審査請求と、再更正についての、審査請求

‥‥以下省略‥‥」

右一〇四―四の通達によると、当初更正の、審査請求と、その処分に対する、再更正の、審査請求は、それぞれ別個の独立した処分に対するものとして、裁決することを、定めている。

然るに訴えの段階で「当該課税の当否は、専ら、右再更正の、当否をめぐつて、争われるべく、当初の更正を、独立の対象として、その取消を、求める利益はないというべきである」との、判決理由は、不服申立制度に於ける、不服審査の、段階を、異にすると、言うだけで審査請求の、段階では、当初更正処分は、「独立の対象として、その取消を、求める利益を、有するもの」として、取扱はれているのに、その審査請求を、前置として、なされるべきであるとする訴えの段階では「独立の対象として、その取消を求める利益は、ないというべきである」と、説示されることから、一貫した、不服申立制度に、矛盾を、内包することになるから、判決の理由は、法の趣旨に反するものと、解される。

又、仮に当初更正処分が、異議申立ての、段階で、審理されているとき、増額再更正が、なされた場合、「その後における、当該課税の、当否は専ら、右、再更正の、当否をめぐつて、争われるべく、当初の、更正を、独立の対象として、その取消を、求める利益は、ないというべきである」としてなされるべきであるか、又実際に、なされているか、について異議申立ての、段階について検討する。

国税庁長官の、国税局長、沖縄国税事務所長、税関長、沖縄地区税関長に対する「不服審査基本通達(異議申立関係)の制定について」の、昭和四八年一一月一日付直審一―一〇、直所一―二〇、直法二―九四、直資二―一九一、官総六―一六七、間酒一―五四、間消一―九八、徴管二―七九、徴徴四―一五、査調四―七、査察一―六の通達の第四章雑則第一〇四条((併合審理等))関係一〇四―三(併合審理をした場合の決定)によると、

「一〇四―一により、併合審理をした場合の決定は、それぞれの異議申立てについてしなければならないが、それぞれの、異議申立てが、同一人からされたものであるときは、便宜同一の、決定書に、それぞれの主文を、併記し、決定の理由の、附記は、共通しても、さしつかえない」

とあり、前記不服審査基本通達(異議申立関係)一〇四―一は、

「法第一〇四条第一項の、規定による、併合審理は、たとえば、次に掲げる異議申立てのように、一または、複数の処分について、された複数の、異議申立てが、それぞれ別個に、係属している場合に、行なうことができる。

(1) 同一年分または、同一事業年度分の、更正または、決定についての、異議申立てと、再更正についての、異議申立て

‥‥以下省略‥‥」

右一〇四―三の、通達によると、当初更正の異議申立てと、その処分に対する再更正の、異議申立ては、それぞれ別個の独立した処分に対するものとして、決定することを定めている。

審査請求の場合と同様、一貫した不服申立制度からすれば、判決の、理由は、法の趣旨に反すると、解される。

2 判決理由の、基礎となつた、判例に於ける吸収説について、

そもそも判例上の、吸収説の、発端は、下記の判例であると言われている。

即ち、最高裁判所の判決、昭和三二年九月一九日(最民二、九、一六〇八田中判解九〇事件須貝民商三七・三)上田政男―阿倍野税務署長

〔財産税法による課税価格の、再更正が、あつた場合に、当初更正の取消しを、求める訴えは、不適法である〕

『所論は、被上告人が、本件昭和二二年九月八日の、更正決定による一八一、六〇五円の、課税を、取消し、新たに昭和二四年二月二五日の更正決定により、二三五、八二〇円の、課税をした旨は、何ら、主張して、いないに拘らず、原判決が、右二三五、八二〇円の、課税により、右一八一、六〇五円の、課税が、取り消されたものであるとして、この部分に対する訴えは、その対象を、欠くもので、不適法であると、判示したのは、民訴一八六条に、違反するものであると、いうのである。しかし、原判決は、「政府は、課税価格、更正後、その更正した、課税価格について、脱漏あることを、発見したとき、は、調査により、課税価格を、更正することができるものであつて(財産税法第四六条第五項)再びなされた課税価格の更正によつて、当初なされた更正は、当然消滅に帰したものと、解しなければならない。何故ならば、再更正は、当初の更正をそのままとして、脱漏した部分だけを、追加するものでなく、再調査により、判明した結果に基いて、課税価格を、決定したものだからである、そうすると、昭和二十二年九月八日附書面で、通知せられた、課税価格の更正は、昭和二十四年二月二十五日附書面で、通知せられた、再更正によつて、当然消滅に、帰したものであるから、前示更正の、取消を、求める訴は、その対象を、欠くもので不適法として、却下せられなければならない」と、判示して、いるのであり、所論のように、一八一、六〇五円の、課税の効力が、後の二三五、八二〇円の、課税によつて取り消され、消滅したというのではなく、財産税賦課の基準となる課税価格につき、なされた、当初の更正決定が、後の更正決定によつて、消滅に、帰したという趣旨のものであることは、判文上明瞭であつて、右原審の、判断は、当審においても、これを、是認することができる、所論は、課税価格の、更正決定と、税額の決定とを、混同し、原判示に、副わない主張を、前提として、原判決を、攻撃するものであつて、採るを得ない』

右判決に代表される、属に、吸収説と、呼ばれているものは、

〈1〉 更正等の処分により、前の申告等の、効力は、その行為時に遡つて、生じなかつたものとされ、更正等の効力が、改めて、その処分に係る金額について生ずる、たとえば、申告に対する更正処分は、単に、申告に対する追加的な、処分に、すぎないものではなく、税務官庁が、調査の結果に基づいて、改めて、当該納税義務者の、課税標準及び、税額を、全面的に、変更し、決定する課税処分である。

又、昭和三二年一〇月一八日の、広島高等裁判所の、判決に、代表される、属に、独立説と、呼ばれているものは、

〈2〉 更正等の効力は、その処分によつて、変更を、生じた、増差税額に関する部分についてのみ生じ、後の更正等の処分は、前の申告等とは、別個の行為として併存する。

以上の二つの考え方が、行なわれて来たのであるが、昭和三七年四月一日始めて、国税通則法(法律第六六号)が制定され当該法により、その解釈は、明定された。

国税通則法第一条(目的)を掲げると、

「この法律は、国税についての、基本的な、事項及び、共通的な事項を定め、税法の体系的な、構成を整備し、かつ、国税に関する法律関係を明確にするとともに、税務行政の公正な、運営を図り、もつて国民の納税義務の、適正かつ円滑な、履行に、資することを目的とする」

とあることから、申告、更正(再更正を含む)決定等については、当然国税通則法制定後は、同法に拠つて、解釈判断されなくては、ならないことが判る。

ところが、本件却下判決の理由を、見ると、たゞ機械的に、従前の吸収説による判例を適用し、更正、再更正等については、国税通則法に規定されているにも拘らず「原告の主張する国税通則法の各条項も、右見解を、妨げる論拠とは、ならない」と説示し、徒らに、国税通則法を、無視し或は、再更正のみについて、分離解釈をなし、同法の、法体系の中に占める更正、再更正の、意義を、は握されていない。

控訴人は、国税通則法によれば、前記独立説が、正当であるから、吸収説は、違法で、あることについて、前号でるる反論した。

そこで、国税通則法が、独立説の立場に立つて、制定されたものであることについてその、理由を、述べる。

〈1〉 大きな理由の一つは、課税技術上の問題である。申告、更正(再更正を含む)決定等の、税額確定は、直接納付徴収と、結びつき、その結果吸収説を、採用すると、吸収後の、新たな、確定税額について納付徴収する、こととなるため、吸収された従前の、確定税額は、必然的に、取消し、還付を、余儀なくされ、そのため、複雑困難な、事務管理の問題が、発生する。

独立説の増差税額のみについての、確定とすれば、単にそのもの、のみの納付、徴収となるから、吸収説の様な、問題が、発生しない。(国税通則法二九条、二八条、三五条等)

〈2〉 今一つは、現行租税法が、申告納税制度を、採用し、それを、主体として、おることである。

国税通則法第一六条(国税についての、納付すべき、税額の、確定の方式)では、

「国税についての、納付すべき、税額の確定の手続については、次の各号に、掲げる、いづれかの方式によるものとし、これらの方式の内容は、当該各号に掲げるところによる。

一、申告納税方式 納付すべき税額の、納税者のする申告により、確定することを、原則とし、その申告がない場合又は、その申告に係る税額の計算が、国税に関する法律の、規定に従つて、いなかつた場合、その他当該税額が、税務署長又は、税関長の、調査したところと異なる場合に限り、税務署長又は税関長の処分により、確定する方式をいう

‥‥以下省略‥‥」

右規定によつても、明らかなように、所得税の如き、申告納税方式に、よるものは、「納税者のする申告により、確定することを、原則とし」ている。従つて、税務署長の更正は、「その申告に係る税額の計算が、国税に関する法律の規定に従つていなかつた場合、その他当該税額が、税務署長の調査したところと異なる場合に限り」特別に行なわれる処分である。

吸収説の様に、再更正が、申告或は、更正等を、吸収し、税務署長が之により、新たに、税額確定を、するとすれば、「納税者のする申告により確定する原則」である。申告納税制度を破壊することになるから、国税通則法は、あくまで、その増差税額について、更正、再更正をなし、税額を、確定し、納税者の申告税額を、存置しながら修正する、(国税通則法二八条)

かくして、国税通則法は、納税者確定原則即ち、申告納税制度を、維持発展せしめようとする目的を、有していると、解される。

3 当初の更正処分は、再更正処分に、吸収化体されているから、再更正処分後には、独立な、行政処分として、存在しないものとし、訴訟の対象となさない場合は、再更正処分について、訴訟をし、再更正処分の、取消しがあつても、当初更正処分については、行政事件訴訟法第七条による民事訴訟法第一八六条の、定めにより、その判決を、得ることが、出来ないから、当初更正処分の、取消しを求め得ない。

国税通則法第二八条(更正又は決定の手続)によれば、更正通知書に記載し、税務署長が、納税者に、確認通知する事項は、次の通りとなつている。

「一、その更正前の課税標準等及び税額等、

二、その更正後の、課税標準等及び税額等、

三、その更正に係る、次に掲げる金額

イ その更正前の納付すべき税額が、その更正により、増加するときは、その増加する部分の税額」

とあり、従つて、増額再更正処分に係る、金額は、増加する部分の、税額即ち増差税額であることは、間違ない。

そうであれば、控訴人が、増額再更正の、全部の取消判決を、受け、取消しを、得る税額は、前記増差税額のみであり、その場合は、通知事項で記載、された、「その更正後の、課税標準等及び税額等」即ち、増額再更正額が、「その更正前の、課税標準等及び税額等」即ち、当初更正額に、変更取消し、されることになるが、当初更正額は、何ら取消しを、得られない。

そこに当初更正と、増額再更正との、別個独立の、処分であることが、窺える。

被控訴人は、増額再更正の、取消しを求める訴えで、当初更正についても、その取消しが、主張出来ると、言うのであるが、当初更正の、訴えと、増額再更正の訴えが、いずれも、独立して存在し、併合審理される場合は、格別既に、当初更正が、増額再更正に、吸収され、独立の、存在を、失つているとすれば、当初更正について、主張しても、それは、増額再更正を、審理するための、参考と、されるのみである。

さればこそ、控訴人が、一審裁判に於ける準備書面で、主張したように、当初更正処分を、独立の行政処分として、取消を求め、ないときは、増額再更正処分の、取消しがあつても、当初更正処分については、行政事件訴訟法第七条による、民事訴訟法第一八六条の、定めにより、その取消し判決を、得ることが、出来ないことを、主張したのである。

(結論)

一審却下判決の理由は、増額再更正が、なされた場合、当初更正が、それに、吸収されるとの、法的根拠が無く、又、国税通則法を、無視し、之に違背する違法があり、同様却下判決を、求めた、被控訴人の、主張も、違法であるから、控訴人は、本件却下判決の、取消しを、求めるものである。

以上

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